2010年6月23日水曜日

ケンタウロスはどのように仰向けになるか?

今、ラテン語の授業でオウィディウス『変身物語』の12巻を読んでいます。
今読んでいるところは、『イーリアス』でも語られる、
ペイリトオスとヒッポダメイアの結婚式のさなかに起こった
ラピタイ族VSケンタウロイの大乱闘のあたり。
臓物や脳みそをぶちまけあう、なんとも
スプラッターな場面を毎週じっくり読んでいます。

そんな中、ふと浮かび上がった疑問。

ケンタウロスって…どうやって仰向けになるのだろう?

はい、今日の日記はこの、ケンタウロスの仰向けについてです。


えーと、どのような背景でケンタウロスが仰向けになっているのか、
ちょっとご説明いたします。

舞台はテッサリア、
ラピタイ族のペイリトオスと、その花嫁ヒッポダメイアの結婚式が
洞窟の中にしつらえられた宴会場で行われています。
ペイリトオスはイクシオンの息子ですが、
同じくイクシオンを父に持つケンタウロイ(ケンタウロスたち)も招かれていました。
セレモニーは和やかに進んでいましたが、
酒に酔ったケンタウロイの一人、エウリュトスが
かわいい花嫁に欲情して彼女を攫ってしまったことから祝宴は大混乱。
テーブルはひっくり返されるわ他の女の子達もさらわれるわで
あたりは一面悲鳴の海に。
これにキレたペイリトオスの親友、アテナイの王子テセウスが
エウリュトスを打ち殺し、脳みそをぶちまけちゃったことで
ケンタウロイも憤り、人間たちVSケンタウロイの大乱闘へ…という場面です。

そんな大騒ぎの中、あるケンタウロスが仰向けになっていたのです。

以下はラテン語原文と私のつたない訳です。
(テキストはOCTのものです)

In tanto fremitu cunctis sine fine iacebat 316
このような大騒ぎの中、はてしなくすべての血管において
sopitus uenis et inexperrectus Aphidas
横たわって眠り、起こすことが出来なかったのがアピーダースだ。
languentique manu carchesia mixta tenebat,
彼はぐったりした手で水と酒を混ぜ合わせたものを注いだ杯をつかんでいる。
fusus in Ossaeae uillosis pellibus ursae.
オッサの山の雌熊のごわごわした毛皮の中に大の字になって。
quem procul ut uidit frustra nulla arma moventem, 320
彼は武器を取ってはいなかったが それもむなしく、
inserit amento digtos "miscenda" que dixit
ポルバースが遠くから彼を見るや否や、投げやりの皮ひもに指を通しながら言った。
"cum styge vina bibes" Phorbas; nec plura moratus
「ステュクスの水で薄めた酒を飲むがいい!」するとそれ以上ためらわず、
in iuuenem torsit iaculum, ferrataque collo
この若者にむかって槍を投げた。そして、鉄の穂先をつけたトネリコの槍が
fraxinus, ut casu iacuit resupinus, adacta est.
彼の首筋を貫いた。たまたま仰向けに寝ていたからだ。
mors caruit sensu, plenoque e gutture fluxit
本人に死の意識はなかった。喉からあふれて、
inque toros inque ipsa niger carchesia sanguis. 325
敷物にも、手にした杯にも、黒々とした血が流れ込んだ。



仰向けに寝ていて…血が手に持っていた杯に流れ込んだ…だと…?!
ケンタウロスって下半身馬でしょ??どうやって仰向けになるんだよ!

というわけで、二通りの姿勢を考えて見ました。

1.仰向けって言うか横倒し


2.脅威の腰の可動範囲

いや…これ無理じゃない?
槍で喉を突き刺されても血が杯に流れ込まなくない?
一体ケンタウロスはどうやって仰向けになるのー?!


という疑問をかかえたまま授業に臨み、
授業中に真面目(そう)に聞いてみました。

たしかに、
「たまたま」仰向けになっていたから首に槍が刺さる
ってなんだか整合性のない文章のような…
遠くから投げたから槍が放物線を描いて、
仰向けになっている喉に突き刺さるって事?などなど、
前後の文脈の中で理解しようと努めていたのですが、

そもそも、古代ローマではどのような姿勢で寝ていたのだろうか?
という議論に話は及びました。

いま私たちは平たいところで寝ていますが、
古代ローマではかなり高枕なかんじで寝ていたのではないか…という話が、
エトルリアの《チェルヴェテリの夫妻の棺》などに触れつつ展開。

↓これが《チェルヴェテリの夫妻の棺》たしかB.C6世紀



あとこれはギリシアの話ですが
『オデュッセイア』の最後の場面で
大木の洞の中に作ったベッドが出てきます。
洞の中だと平べったくないから斜めの姿勢で寝ることになるはず…


そんな就寝スタイル議論の中、もしかしたらケンタウロイも、
平たいところに仰向けになっていたのではなくて、
斜めに傾いたところで仰向けになっていたのでは?

という画期的な仮説が生まれました。

つまりこういうこと↓




おお!!!
これなら、喉に槍が突き刺さっても、手に持っている杯に血が入る!!



うーん、えぐい。


果たしてこれが
オウィディウスの想定していた仰向けかどうかは分かりませんが、
私が始めに想定していた仰向けよりはずっと説得力がありますよね!

まったく、オウィディウスも絵に描いて残しておいてくれたらよかったのに…。

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